沖縄と小説と変な人たち

 一月最後の週で、高校の文藝部の人たちと沖縄に合宿に行ってきた。
 私のいない飲み会の場で、「もう一回高校の時みたいに合宿しようよ!」となったらしい。いなかったので伝聞ですが。合宿に来たのは九人、女四の男六である。全体の人数が十四人であることを考えたら割と集まりが良い方だ。とはいえ私の同期はテストやら卒論やらで一人も来なかったので、登場人物は全員先輩である。学生より社会人の方が暇というのもどうなんだ。


 各自取った飛行機はバラバラだったので、私は同じ便に乗る予定のT先輩と待ち合わせをした。本当は三人が同じ便に乗る予定だったのだが、一人が「七千円を無駄にする寝坊」をかましたので、二人で行くことにしたのだ。
 ビンボー大学生なので、私たちは、預け荷物なしのLCCという「極限までの節約」で乗るつもりだった。だが、バニラエアの「手荷物二つで七キロ以内」という制限を守るあまり、ポケットに財布やら文庫本やらヘアアイロンやらを突っ込んだせいで、コートは鎧のように重たくなった。ヘアアイロンのコードがポケットから飛び出しているのを見て、さぞかしバカな大学生だと思われたことだろう。大変恥ずかしかったので、社会人になったらちゃんとお金を払おうと思う。

 そんなこんなで沖縄に着いた後は、沖縄に住んでいるN先輩と、一足早く着いていた先輩三人が出迎えに来てくれた。皆で車に乗ろうとしたのだが、T先輩がドアの開け方も分からないというので、一同は唖然とした。
「馬でしか移動したことなかったの?」
 別の先輩の一言で場に笑いが起こった。ちなみにT先輩は窓の開け方も分からず「どこ押せばいいの?」と聞いていたし、シートベルトも脇の下にくぐらせて固定していたのだから、本当に文明に触れたことがなかったのかもしれない。
 車で移動した先は、S先輩の「此処の沖縄そばが一番うまい」と一押しする沖縄そば屋だった。味の違いの分からない一同は、したり顔で「ほお~」と言いながら啜っていたが、何しろ味の違いが分からないので、それ以上の感想はなかった。
 机の上に乗っているソースのようなものを手に取ったT先輩が、「これ何?」と沖縄住みのN先輩に聞いた。唐辛子で出来た、味付け用の辛い調味料らしい。
「ほお~」
 T先輩は分かったような顔で、手を扇のようにパタパタして匂いを嗅いだ。
「扱いがまるで劇薬だな」
 S先輩が突っ込む。「理科の実験でやるやつですね」私も言った。わははってなった後、唐辛子ソースを持ったT先輩が沖縄そばにそれを掛けようとするので、すかさずT2先輩が聞く。
「箸を漏斗の代わりにしなくて良いの?」
 その一言でまたわらわらっと一同は盛り上がった。沖縄そばを食べ終えた後は、万座毛という絶壁の崖に向かった。

 車は大人数だったから二台の分乗だったのだが、女子だけしかいない車では当然の如く「女子だけでしか出来ない話しようよ」となり、浮いた話などで盛り上がった。ちなみに後で聞いたら、向こうの車でも「男子だけでしか出来ない話しようぜ」となったらしいから、人間みな考えることは一緒である。

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万座毛


 万座毛は本当にただの崖だった。女子三人で「女の子っぽい写真を撮ろう」となったものの、「女の子っぽいポーズってなんだ……?」と全員首を傾げてしまった。
「ミスコンみたいな写真にしようよ」
「ミスコンの人たちって、同じ方向むいて前の人の肩に手を置きがちだよね」
「あ、分かります! それにしましょうよ」
私は大いに頷いたのだが、「ミスコンあるある」が伝わらない人がいたため、写真は小学生の「マジの前ならえ」になってしまった。恥ずかしいので載せないが。

 万座毛の後、「相場で計算すると七千円の寝坊」をやらかした先輩と合流し、スーパーで夕飯を買い出しした。ホテルはテラーハウスのような素敵なところで、二階を寝室、一階がリビングとダイニングといったところの一軒家のようだった。

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これが一階。奥がキッチンになっている

 

 目の前はすぐ海だ。海では石切りの回数を競い合ったり、夕陽を背景にCDのジャケットっぽい写真を撮ってみたりしているうちに暗くなっていった。帰る途中、「将来は此処をトキワ荘のようにして生活してみたいもんだ」と先輩の一人が言った。

 

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ドアを開けるとこんな感じ

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翌日の昼。良く晴れていたので綺麗に撮れた



 夕飯のヤギ刺とタコライスを食べている途中では、「なんか音楽かけようぜ」という空気になったものの、白羽の矢が立った先輩はセレクトセンスが絶望的にないのか、「ゴンドラ曲 @ヴェネツィア」を流しだした。サンタルチアと沖縄の共通点は、海辺ということでしかない。結局サンタルチアを背景に、一同はテラーハウスのような一軒家でもくもくとヤギ刺しを口に運んだ。シュールである。

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タコライスとヤギ刺し

 

 こんな文藝部だが、合評会はみな本気だ。文藝部で唯一自慢できるものがあるとしたら、合評会のレベルだと思う。先輩たちの指摘は鋭いし、「俺にはハマらなかったけど、切り口としては大正解」といった、主観を除いた評価もしてくれたりする。私は皆から久々に合評をされると思ってテンションが上がっていたので、一人で五作品もグーグルドライブにあげていた。
「用意、セット」
 その掛け声で、皆が口に笛ラムネを設置する。高校の時からの伝統で、合評会は笛ラムネをひゅいーっと吹いてから始まることとなっている。完全に無意味な伝統である。
この人たちは新入生への部活紹介の時も、部長が概要を説明している後ろで、カラーバットと丸めたガムテープで野球をやっていたものだ。想像してもらいたい。「私たち文藝部は、二月に一度部誌を発行し……」と部長がマイクで喋っている後ろの舞台で、無言の十人がカラーバットを手に野球をしているのである。大抵の新入生はドン引きなので、文藝部には、その部活紹介で「入りたい」と思う変な奴しか集まらない。なので、こういう変な伝統がたくさんあるのだ。

ともあれ合評会の幕開けである。今回のお題は「ラブフェスタ」。全員が恋愛をお題に小説を書くというもので、一番胸きゅんだった作品には景品がある。景品を買ったのは私だが、ラブフェスタっぽく「ギフトチケット ペアクルーズ券」をセレクトした。たとえ恋人のいない人に渡ったとしても、「誰と行くの? 誰と行くの?」と全員で寄ってたかってからかえそうだと思ったからである。
(結局彼女のいる先輩の手に渡ったので、平和な形に収まった)
「面白そうだから」それだけの理由で全員が匿名で作品を投稿することにしていたので、作者を公開した時に場が騒然となることもあった。「絶対これ女が書いたと思ったのに!」という悲鳴混じりの驚嘆が上がったりもした。私は五作品もアップしているので、さぞかし皆を攪乱できているだろうと期待していたのだが、「所々に篠宮節が出ている」という理由で看破されていた。先輩はさすが鋭い。
 合評会は三時でお開きになり、それから元気な人たちだけで五時までボードゲームをやった。元気な人といえども所詮は文藝部なので、皆へとへとに疲れた。そして寝た。

 

 二日目以降はダイジェストで送ろうと思う。二日目は、お祭り期間の米軍基地に入ったりした。普段はもちろん、入ることは出来ない。オリオンビール工場に四時に予約しているというのに、ターザンロープで遊んでいたせいで、最後は走って車に向かわなければならなくなった。
 ステージでハルマゲドンのような曲が流れる中、髪を風に攫われながら疾走する男女たち。「これが青春か」一人が呟いた。もしこれが映画なら格好いいのだろうが、文藝部の体力で頑張ろうとしたばかりに、ぜいぜい息を切らしながら「ごれが、せ、青春、か……ハアハア」と苦しげな実況コメントになっただけだった。結局オリオンビール工場の予約には間に合わなかったので、動物園で鳥にエサをあげることになった。今までの学生生活で教え込まれたはずの「五分前行動」が身についていない人たちである。修学旅行にいたら一番迷惑をかけるタイプじゃないか、と思ったが、ターザンロープで一番はしゃいでいたのは私なので、人のことは言えない。

 二日目の合評会では、途中でS先輩が「お前……適当に書いてるとか言うなよ!」というアツい台詞を別の先輩に吐き捨て、剣呑になった。言い争っているうちにS先輩が相手の先輩の胸倉を掴み、往復ビンタをした。負けじと相手の先輩も往復ビンタをかます。さながら二人は往復ビンタ会場のリングの中のボクサーのようであった。そして互いの頬を引っぱたきながら、ゴングがなるまで二人は汗を飛ば続けていた。……というのは私のでまかせであるが、創作について激論を交わしたことだけは事実である。

 私として嬉しかったのは、先輩方から内定祝いのサプライズを貰ったことだ。
「え、何ですか、中身」
 開けてみると、名前入りの木のUSBメモリだった。隠れたメッセージ――〈これで作品を書くのだ〉――に気付かない私ではない。木のUSBということは、この風合いが変わる頃になっても、使い続けろという意味なのだろう。それはさすがに深読みだろうけど、「プレゼント おすすめ」の検索結果の上位に出てきただけかもしれないけど、私はそう思った。
 内定者は椅子の上に立って一言を言うことになったので、青春の雰囲気に浮かされていた私は、堂々と宣言してしまった。
「私は、これからも本気で作家を目指します。皆さま今後とも、ご協力をよろしくお願いいたします」
 おお、というどよめき。私が作家を目指していることは、今まで全員を前にして言ったことはなかったので、知らない人がほとんどだったのだ。
「選挙演説みたいだな」と先輩から言われたので、「近隣の皆さま、篠宮深琴、篠宮深琴を、どうかよろしく、お願いいたします」と色々な方向に手を挙げて挨拶をした。
「マニュフェストはしっかり守れよ!」
 ヤジが飛んできた。こうして二日目の夜は終わった。
 
「篠宮さんって、爆弾みたいだよね」
 頭に残っているのは、飛行場でK先輩に言われたこの言葉だ。どういう意味なんですか、と騒いだが、「褒めてる褒めてる」と言われたので、都合よく受け取っておくことにした。爆弾、という言葉の強さを、何度も反芻した。
 作家になりたい――この宣言に思うところがあったのか、他の先輩にも変化があった。
 一番は、小説家を目指していたものの、事情があって一旦創作をやめてしまったというT2先輩なのではと勝手に思う。知り合いがいたら避けるような先輩が、帰りの電車のルートを私に合わせてくれて、「篠宮さんて、小説で挫折したこととかないの?」とか、「いつから書き始めているんだっけ?」とか質問してきてくれた。帰りの電車で創作の話をしているうち、先輩の眼が生き生きし始めているのを感じて、とても嬉しくなった。
 私の長編を書評してくれたり、「篠宮さんはこれを読んだ方が良い」と言って気前よく本を貸してくれたりするS先輩もそうだ。二年間小説を書いていないと言っていたけれど、ラブフェスタでは本気で作品を用意してきた。別に私を意識した訳ではないかもしれないけど、もしそうだったら良いなと思う。
 脚本家を目指していると言っていたT3先輩(苗字にTが付く人が四人もいるので紛らわしい)も、「篠宮さん見てたら、俺ももっと書きたくなってきた」と言ってくれた。私の言葉が、先輩たちの止まっていた時間を動かせたのだとしたら、もう一度夢に向かう元気を与えられたとしたら、素敵だと思う。
 趣味で創作をやるのも良い。夢を追いかけるのも良い。目指す人を応援するのでも良い。この合宿は、創作に向ける色々なあり方を見せてくれた。そして私はこの合宿で、この人たちと出会えて良かったなあと改めて感じてしまった。

 文藝部沖縄合宿。最高であった。

 

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特に意味はないが鳥