催眠術にかかってきた

こんにちは、篠宮です。

突然だが、ARuFaさんをご存じだろうか。このはてなブログで、異次元のオモシロの大地を開拓した「ARuFaの日記」の管理人である。もし知らなかったら、是非記事を読んで欲しい。「下敷きを貼り合わせてバリアにしてみた」とか、「蟹を色々な方法で食べてみた」「ハッタリだけで格闘家をビビらせて勝つことは出来るのか?」「店員に話し掛けられる前に服を買え!即買いコーディネート選手権!」など今は主にオモコロで活躍中で、現代のインターネットオモロの先駆け的存在である。

https://omocoro.jp/staff/arufa
(オモコロURL)

https://omocoro.jp/tag/匿名ラジオ/
(匿名ラジオ)

発想も文章も奇抜で群を抜いているため、彼のことを「天才」と称する人間も多い。かくいう私も、オモシロのカリスマを挙げるとしたら彼を措いては考えられないと思う。おまけに声も格好良いし、歌も上手いし、オモシロへの拘りもカリスマ性も高いから魅力がある。「どうやったらウケるのか」ということを四六時中考えているらしいので、会社の人からは「オモシロコンテンツの詰まった麻袋」とも呼ばれているらしい。彼は「狂ってる」とよく言われるが、おそらく、彼になりたくて狂っていった人々の方が、はるかに多いに違いない。

そのARuFaさんの書いた記事の中に、こんなものがある。

【提案】飲み会に『催眠術師』を呼ぶと最高に楽しいんじゃないの?
http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/bhb/3587

 催眠飲み会! 発想が食パンの2枚切りである。つまり、一見あり得ないがハニートーストなどでは天才的に美味しいということだ。
読んだ時はケラケラ笑わせてもらったのだが、この前Facebookで偶然、この記事を基にしたイベントを見つけた。怪しかったが、私はARuFaさんが好きなので、もちろん行って来た。ちなみに時は台風19号前夜、「地球史上最大」と言われた台風が来る日である。翌日、箱根は観測史上最多雨量に見舞われ、二子玉川が浸水し、東北が水浸しになろうとは、この時点では知る由もなかった。

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宇宙から見た台風19号

https://twitter.com/follow_me_ll/status/1182328990830186497?s=20

より 2019年11月19日所得)


催眠飲み会 スタート

 催眠飲み会を主催するのはNPO法人で、ボランティアの関係者がたくさん連れてこられていた。というか参加者は全員そのNPOの関係者で、ARuFaさんの記事を読んだ人はおらず、私は奇異な目で見られながら「アルファサンオモシロイヨォ」と鳴く珍獣であった。

呼ばれた催眠術師は、夢幻さんという方だ。日本で催眠術師は10人程度しかいないらしいが、その中で2番目にテレビに出ているらしい。

http://cool-d.com
(夢幻さんのサイト)

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皆のイメージをいらすとやで集約


「催眠飲み会」では、初めは和やかな雰囲気で参加者が話す時間が設けられる。催眠にはリラックスした空気が必要らしいので、場をほぐすのだ。参加者は20人ほどで、2つの机に分かれ、ほろ酔いを流し込みながら語らった。

30分ほどで場が温まったら、いよいよ催眠術師の出番だ。ついでに私は以前催眠についての本を読んだことがあり、いつか掛けられたいとずっと思っていた。いよいよその時が来るのである。

ちなみに催眠といったら、操り人形のように何でも言うことを聞いてしまうイメージを持っている人もいるかもしれないが、決してそんなことはない。全て記憶には残るし、「人を殺せ」や「裸になれ」など、本人のモラルに反することは実行させられない。
意外に思われるかもしれないが、催眠には集中力と想像力、そして術師への信頼感が必要だ。被催眠者が、「嫌だ」とか「怖い」という感情を抱いた時、催眠は覚醒してしまう。催眠術師の指示に従わない時も同じだ。「本当に出来るかもしれない」「そうなったら面白いかもしれない」という期待と、「催眠に掛かりたい」という気持ちが必要なのである。
私は勿論そういった類のことやメカニズムも事前学習済みであり、どうせ意に沿わないことなど出来ないんだろう? ははん? と思っていたが、あくまで念のため、クレジットカードや免許証の類は全部家に置いてきた。だってもし、「あなたはクレジットカードを渡したくなーる」という催眠に掛けられたら、私の雀の涙ほどの貯金が、インフルエンザウィルスくらいまでに小さくなってしまうではないか。いやいや、それは困る。

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ウィルス




催眠に掛かった人 鑑賞タイム


さて、いよいよ催眠の始まりだ。催眠術師の導きに従い、参加者は想像力を膨らませていく。
初めにかけられたのは「目が開かなくなる催眠」。天井の一点で集中できる箇所を見つめ、ぼうっと見つめ続け、さらに見続け、見続けてから、目を閉じる。目を閉じてからもその個所を見続け、術師は、それが心地が良いことのように言葉で我々を誘導していく。

「そして次の瞬間、ハイ! あなたの瞼は、ガッチリと固定されて動かなくなる!」

術師の声が響くと、不思議! 本当に瞼が動かなくなった。力づくで開けようとしても、ガッチリとニカワが張り合わされたように、びくともしない。私は狼狽した。本気でこじ開ければ開かないこともなさそうなのだが、そうしたら瞼が壊れそうな気もした。

命令を解いてもらうと、あっさり開くようになる。続いては、「指がくっついて離れなくなる催眠」。あ、これ本で読んだやつだ、と思ってしまったせいか、この暗示には掛からなかった。接着ボンドで手がべったりと貼りあわされているというイメージを喚起するよう、術師の声は続いていき、実際に指が開かなくなった人もいた。人数が多いので、まず彼らだけ前の席に移動し、私を含めたその他の人は、彼らの様子を観賞することになった。

術師は彼らに語りかけながら、「電車でうたた寝をしているイメージ」を想起させ、より深い催眠へと導いていく。本当に眠ってしまったようにも見えたが、バタバタと参加者の頭が倒れていくのは不思議な光景だった。気持ち良かったのか、頭がぐらぐら動いてしまう人もいたのに、「はい、肩固定だよ!」と言われると、肩がガッチリと固定されて、全く動かなくなる。なんだこれ。

その状態で次々に、「わさびがアボカドに感じられる催眠」「緑色のものを見たら笑いが止まらなくなる催眠」「音楽が鳴ると踊り出したくなる催眠」など、「本当なの?」と思いたくなる催眠が繰り広げられていく。催眠の掛かり方が浅いせいで、わさびを「うわ、からい!」と言ってしまった人もいた。また、被験者により、掛かりやすい種類のものと掛かりにくい種類のものがあるようだ。催眠に入る時も、音の方が掛かりやすい人と、匂いで掛かる人、様々らしい。勉強になった。


催眠に掛かった

……と、此処で終わりなら特に記事にはしないのだが、この後、「最初に催眠にかからなかった人のための時間」というのがあり、個別で催眠術にかけてもらった。その話をメインでしていきたい。

まず、術師は「バケツと風船」の話をする。手を正面に真っ直ぐ突き出してから目を瞑った姿勢で、語りに耳に傾ける。
「あなたは右手で風船を持っており、左手には砂の入ったバケツを持っています。その風船がどんどんどんどん大きく膨らんでいき、逆に砂のはいったバケツはますます重く重くなっていきます。風船は今にも空に舞い上がりそうで、高く高くと持ち上がっていきます。一方バケツが重たくて左手はどんどんだるくなり、持っているのが精一杯なほど、重い。重い、重い、重たくて仕方がない……」
そんな言葉を聞いていた後、「ハイ目を開けて!」と言われて目覚めると、私の両手は大きめのパックンチョばりに割れていた。ここで右手と左手がどれだけ開いているかが、催眠の掛かりやすさを示しているのだそうだ。私は割りと掛かりやすいようである。

それを見ると、夢幻さんは誘導を始める。まずは軽い催眠状態に入ってから、電車でうたた寝をしているイメージにより、深い催眠に入っていく。
「起きた時、あなたはとてもぼおーっとした状態で目覚めます。はい、1,2,3」と言われ、私は顔をあげた。確かに頭がぼんやりとしている。夢幻さんが、私の眼を見て言った。

「僕の経験では、あなたは今日の参加者の中で、トップ3に入るくらい深い催眠に入っていますよ」

 ほんとに⁉ と思った。確かに少し身体は気だるい感じがするが、他に違うところは見つけられない。私がダンス部なら、バク転と宙返りを披露しただろう。まあ所詮、私の限界は芋虫の前転といった所だろうが。
「かかっていますよ」と言うことで、暗示の作用を高めているのではないか? と疑いかけたが、いかんいかん信じなければ催眠にならないのだ。私は確かに気持ちよ~い。心なしか、頭もぼんやりしていた。それでも酔った時ほどではない。アルコールのトランス状態、催眠よりも恐ろしき。この言葉は、家の柱に彫り抜きたい。

「やってほしいことはありますか?」という声を聴き、先程のワサビの催眠を思い出した。全く違うものでもそう感じられるのだろうか。

「ポテチが抹茶味に感じられる催眠を掛けてほしいです」

夢幻さんは頑張った。私にポテチを見つめさせ、舌に抹茶の味を想起させるべく額に汗を浮かべた。私も頑張って、必死にポテチがあの抹茶になるところを想像してみた。だが、色が違っていたからか、私の想像力が足りなかったからなのか、結局ポテチの味は変わらなかった。
「やっぱりしょっぱいです」パリパリとかじりながらそう言って、やっぱり催眠掛かっていないのかな、と少し疑う。でも夢幻さんは「人によって、掛かりやすい暗示は違うからね」と、特に不安になる様子もなく言った。

「あなた多分、この催眠には掛かるよ。試しに、ゆっくりと、自分の全部を乗せるようにして、『わたしのこえ』って言ってみて。一つ一つ、大事に丁寧に、区切るように」
「わ・た・し・の・こ・え」
「はい、あなたの『こえ』、僕がぎゅっと握りました。そして、これを他の子に預けます。そうすると不思議! あなたは声が出なくなる!」

 私は目を見張った。そして、喉の奥から何とか何かの声の塊を出そうと努力した。だけど、何かが喉の入り口をふさいだように、全く声が出なくなっていたのだ!

観客のどよめき。私は喉に手を当てたし、声を出すときにするように、少し前傾の姿勢にもなった。息よりも大きな、空気の塊は確かに私の口から洩れていた。でも、それは「声」にはならなかったのだ!

「可哀想に、はい、あなたの声を戻しますよ」

 夢幻さんがそう言い、参加者の掌に預けていた『こえ』を私の方に抛った。途端に、私の喉からは喘鳴のような声が蘇る。

「うそー」「まじかー」とどよめく参加者。私もさっきまでそっち側にいたのに、一体どういうことだろう。本当に身体が言うことを聞かなくなった。え、というか催眠掛かってたの?とでも思いたくなるくらいのあっけなさだ。それが逆に怖い。

 でも安心して欲しい。私は夢幻さんを信じていたし、「こえ」はいつか返してもらえるだろうと分かっていた。催眠には、やはり術師への信頼が不可欠なのだ。私が「無理」とか「嫌」と思っていたら、催眠には掛からなかったと思う。催眠術師は道を敷くだけで、その上を歩くのは被験者なのだと改めて感じた。


催眠療法

催眠には幾つか種類がある。指をパチンと鳴らしたり、「はい、あなたはこうなる!」といった命令に従うのは、瞬間催眠だ。入眠も早いが、覚醒も早い。今まで私たちが夢幻さんに掛けられていたのも当然これに当たる。
一方「催眠療法」というものは、医療の現場にも使われているもので、入るのにも出るのにも比較的長い時間を要する。被験者の一人が瞬間催眠に掛かりにくいということで、夢幻さんは「じゃあ催眠療法を試しますね」と腕捲りをした。だが、先ほどの催眠に掛かったままの私は、横でぼんやり聞いているうちに、勝手にそっちの催眠にも掛かってしまったのだ。

催眠療法は物語形式である。夢幻さんは語りかけることで情景を想起させ、被験者を意識の底へと誘っていく。

「あなたは、あまり人のいない電車に乗っています。どこかの田舎へ向かっているのでしょうか、外に見えるのは穏やかな光景です……静かで、ぼおーっとしたまま揺られているうち、あなたは段々眠くなってきます。首が落ち込んでいきますが、身体は電車の振動に任せています。微かに揺れて、良い気持ちです……かたん、ことん、かたん……窓からは温かい陽が差してきて、身体に当たっています。ぽかぽか、ぽかぽか、気持ちが良いですね……あなたは、うつらうつらした状態で、その熱を感じています……」

横で聞いていた私も、肩から、ゆっくりと全身が温かくなっていく。陽を感じて、からだが温かい。この上なく安らかな気持ちだ。

「やがて、電車は停まります。電車のドアを抜けると、目の前にドアが現れます。開けると、そこにはあなただけの部屋があります。その部屋の中央には、地下に降りる階段があって、手すりは金色です。階段の横には、あなたの好きな大きな絵が掛けてあって、あなたはその中にとても入りたくなる。10数えると、あなたは地下室にはいりますよ…はい…10,9,8,7,6,5,4,3,2,1……

…… はい、地下室に降り立ちました。そこにはふわふわの布団が置いてあって、身体を沈めるとすごーく気持ちが良い。柔らかくて、良い気持ちになります。あなたはそこに寝転がっています。

今から100数えますね。100、数え終わる頃には、あなたは今まで感じたことのないほど良い気持ちになって目覚めます。頭はぼぉーっとしたままです。はい1,2,3,4,5……」

少し巻き舌ぎみに数を数えられる。所々ワープし、飛び越えながら、100がどんどん近付いてくる。

「……はい98,99,100! おはよー!」

目を開けた。

驚いた。

目が覚めたときの世界が、今までとまるっきり違う。

声が遠い。世界が遠い。

目を開いたまま夢を見ているような心地だった。目覚めた直後にしか感じられない、揺らいでいる夢の名残、あの世界の中で目を開いている感じだった。
心が袋状ならば、底の方を指で押し出し、中身を反転させたような感じ、と言えば良いのだろうか。裏返ったというか、普段内側にあるものが剥き出しになったような、危うい感覚だ。

そして体が重すぎて、立てない。力を入れることも思いが及ばない。ただ気持ちよくて、体の力が抜けていて、再び力を入れることなんて思いも寄らない。地下室のふかふかの布団で永遠に寝てしまいたいと思っている。全身がじんわりと温かいのは、優しく包まれているからだ。まるで緩やかに痺れた繭の中にいるようだった。ふわふわしていて、ふかふかしていて、出たくない。僅かな痺れは、弾力のあるトゲを押し付けられた時のように、不快でなく心地よい。

そして、あらゆる感覚が遠い。

鈍いのではなく、遠いのだ。
感覚器官の上に厚い繭がすっぽりと被せられていて、刺激が弱い。でも、そこにあることは分かる。声も聞こえる。ただ、この私が入った繭をつまみ上げられ、放られてしまったら、どうなってしまうのだろう、とぽつんと思った。

夢幻さんの声が聞こえる。催眠療法に掛かっている間は、目を閉じると瞼がピクピクと震えると言っている。私も試しに目を閉じてみた。見事に、瞼がピクピクする。こんなに分かりやすく催眠に掛かっていると判じられるものなのか。他人事ながらビックリである。

私は横で勝手に掛かっただけだったから、夢幻さんから指示を与えられていたら、果たしてどうなってしまっていたのだろうか。それを少し知りたくもあり、知れなかったのが残念でもあった。

帰り際。結局、掛けられた催眠は解かれてしまった。(当たり前だ)「催眠ときますね~」という言葉を、残念な気持ちで聞いたのを覚えている。
とはいえ、「目覚めたときにはすごくスッキリしている!」と暗示を掛けられたので、覚醒した時の快感は朝のそれをはるかに凌いでいた。あー!気持ち良いー! 疲れ取れてる!ここ最近の残業の重荷が肩から外れてる!と喝采をあげたくなった。


催眠のススメ

とまあ、私の催眠体験はざっとこんなところである。
今回体験して分かったことを簡単にまとめると、「催眠は掛かってみると結構面白い」、といえる。思い通りに動かなくなった自分の身体と、それを不思議だと感じている自分との分離は、奇妙な感覚だった。また、催眠療法は得てして心地好く、安らぐので、心の掃除をしたい人にはうってつけかもしれない。

ただ、ショーや飲み会という場でそれを感じるのは、ちょっと難しいかもしれない。今回も参加者が多かったので、一人一人が深い催眠に掛けられることはなかった。夢幻さんも、全員が催眠にかかりたい人たちだったから大変そうで、あっちに行ったりこっちに行ったりしながら、汗だくで話し続けていた。催眠に掛かりやすい資質の人と、そうでない人を等しく催眠に導くのは大変だと思う。また、「見られている」という緊張から、集中力を阻害されることもある。掛かっているように見せなきゃ、という思いから、無意識にか意識的にか、催眠状態を装っている人もいたように思う。

人目を気にせずに済むので、催眠は一対一で体験することをお勧めする。その方が催眠術師も、あなたの様子を見ながら催眠を掛けてくれるので、より深い催眠に掛かることが出来るだろう。

まあ中々そんな機会を見つけるのは難しいと思うので、手短に楽しみたい人は、5円玉を揺らしてみると良い。

それではそろそろお目覚めの時間のようです。

さようなら。

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